開発者ストーリー
より良い食品開発の実現に向けた
食感可視化への挑戦
官能評価技術の確立により作成された食感マッピングで
伝わりにくい食感を共有、お客様への伝達も可能に
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01
製剤開発の課題と食感マッピングの導入
製剤開発を進める中で、素材の組み合わせを決める際の配合比率はベテラン社員の経験則に大きく依存していました。そのため、若手社員はどのように配合を組めばいいのか困惑し、案件の進行が遅れる原因にもなっていました。そこで、食感マッピングが注目されました。食感マッピングは視覚的に食感を理解できるため、製剤開発の効率化の手掛かりとして有望視されました。社内に既存の食感マッピングがありましたが、①官能評価に基づくものと②機器測定に基づくものの両方に問題がありました。①は評価項目や基準の根拠が曖昧で再現が困難で、②は機器測定の客観的な数値で示されているものの、実際の食事シーンを測定に反映させる難しさがあり、データと感覚のズレが生じていました。そのため、①の官能評価を軸としながら、より根拠と信頼性のある食感マッピングを作成し、製剤開発にツールとして活用することを考えました。
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02
信頼性の高い官能評価系の構築と
食感マッピングの作成食感マッピングの作成を検討する中で、既存データの評価項目や基準の不備や不足に気づき、そもそもデータを1から取り直すため、官能評価系の構築から必要であることが分かりました。そこで、評価用語の選定から評価系構築を行い、体系的なデータに基づく食感マッピングを作ることにしました。妥当性の高い用語選定や、マッピングへのデータの客観的な落とし込みを行うために、先行研究を参考にし、データの統合が容易で視覚的な表現が可能な統計解析ソフトを導入しました。評価系としてシンプルかつ食感の重要性が高いゼリーに着目し、まずはその官能評価系と食感マッピングの作成を目指しました。
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03
官能評価用語の選定
官能評価用語の選定は、新人からベテランまでの幅広い層の社員のアンケートを統計解析にかけて集約し、7語の用語を選定しました。日本語には445語もの食感を表す言葉があり、非常に複雑な世界ですが、当社は食感のプロフェッショナル会社として、用語の微差を使い分けたり、一般の消費者の視点に気を配りながら開発担当者の視点も考慮したうえで、的確な用語の選定を行うことができました。ゼリーの食感マッピングを作成するにあたり、官能評価の方法として基準の明確化と再現性の確保のために、喫食動作中の評価タイミングと量も細かく定めました。その結果、適切な評価方法を完成させることができました。
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04
マッピング完成による食感伝達の向上
適切な評価系と統計解析手法を用いることで、ゼリーの食感を視覚的に直感でわかりやすい二次元のマッピングに落とし込むことができました。このマッピングにより、誰でも食感をシンプルでわかりやすく伝えることができるようになり、社員から「説得力があるマッピングだ」、「お客様からもゼリーの食感の差異を掴みやすくなったという声をもらった」などの声があがりました。
実は⼆次元以上の情報が含まれる仕掛けもされているため、見る人が見れば、より複雑な情報も伝えることができるものとなりました。これにより、社内の製剤開発の意思疎通が容易になり、営業部門の提案の根拠にも自信が持てるようになりました。
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05
今後の展望と開発の重要性
確かな食感マッピングを作成できたことで、社内の製剤開発だけでなく、開発支援サービスにおいても商品開発の議論が進み、官能評価系の構築の支援も行えるようになりました。大手企業を含めても、体系的な官能評価系の構築を行っている企業は少ないという印象を受けています。ゼリーだけでなく、ジャム、食パン、ハンバーガーパティ(動物性・植物性)の官能評価系や食感マッピングも展開しています。今後は、培った技術を他社のサポートへもっと展開していきたいと考えています。現在当社は食感マッピングを用いて、定の食感を求める際に配合が出るような配合予測システムの作成を目指しています。それには多くのデータが必要ですが、実現すれば商談にも便利で、提案や検討がよりスピーディーになります。また、異業種事業への展開として、化粧品や工業品などの分野にも官能評価系の技術を応用できればと考えています。
開発者情報
樋口 侑夏
開発本部研究開発G所属 2017年入社
官能評価や品質管理、臨床研究等の業務に携わっており、統計解析を駆使し、製剤開発の効率化や商品価値を高める研究開発に取り組んでいる。