開発者ストーリー
シロキクラゲ抽出物の物性改良剤としての展開
食品開発市場に新たな風を吹き込んだ
高保水性を持ち粘度が低い新たな素材の発掘
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01
保水性が注目されるシロキクラゲ抽出物
当社はゼラチンやペクチンなどの原料を取り扱い、素材販売だけでなく、製剤としても販売しています。常に新規原料を探し、日本の食品業界でまだ出ていない素材を探索していました。そんな中、中国でシロキクラゲの抽出物を発見しました。日本では食品としては使用されていないものの、化粧品で一部使用されており、保水性が高いことが特徴です。歴史的には楊貴妃が使用していたという背景もあり、美容目的としても興味深い素材です。⼀般的にキノコの健康機能ではなく物性⾯に着⽬されることは少ない中、保⽔という機能からシロキクラゲ抽出物に私たちは注⽬しました。
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02
ベーカリー製品への応用と特性の発見
最初にシロキクラゲ抽出物の高い保水性が、ベーカリー製品に応用可能なのではないかと考え、検討を進めました。その結果、しっとり感が出ることが確認されました。さらに他のアプリケーションに転用するために、各条件下での粘度測定や耐熱性試験、冷凍解凍耐性試験などを行いました。その過程で、シロキクラゲ抽出物が保水性が高く粘度が低いという特性を持つことが明らかになりました。一般的に、保水力が高い増粘多糖類は粘度が高くベタつく食感になりますが、シロキクラゲ多糖はその両立が可能です。この特性を活かし、当社の配合やノウハウを用いて各食品アプリケーションへの展開を進めました。
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03
離水抑制製剤とブランド展開
シロキクラゲ抽出物は保水性が高く、中食のお惣菜の離水を防ぐために活用されています。当社はこの特性を活かし、シロキクラゲ抽出物を離水抑制製剤「UNet デリカキープ」(野菜からのドリップ防止効果)の素材として使用しました。他にもシロキクラゲ抽出物を配合した製剤には、「UNet シミコマーズ」(ソースの染み込み防止)などもあります。また、シロキクラゲ抽出物は「トレメルガム®」というブランド名で展開しています。この名前は社内で募集し、シロキクラゲの学名(Tremella fuciformis)に由来しています。これにより、お客様への認知度や使いやすさを伝えるための姿勢も高まりました。
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04
学術的な研究と知財化への取り組み
当社は大学との共同研究を行い、シロキクラゲ抽出物の冷凍解凍耐性のメカニズムを明らかにしました。これにより、「シミコマーズ」の冷凍ソースの展開などに繋げる体制を整えました。また、同様に知財化にも⼒を注いでいます。シロキクラゲ抽出物は低粘度・⾼保⽔・冷凍解凍耐性を有しており、⾷感に影響せずに品質を改良することができるという他素材にはない優れた特性があります。これらの特性を活用することにより、シロキクラゲ抽出物を配合したさまざまなアプリケーションのニーズに応じた製剤の特許が査定されています。
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05
市場評価と未来の展望
⾷品企業のお客様からは、「スッキリしつつ保⽔性が⾼い素材はこれまでになかった」と⾼評価をいただいています。「トレメルガム®」の特性に着⽬し、競合他社からも⾷品開発において注⽬される素材として評価されています。実際に、トレメルガム®は食品素材・添加物の展示会であるifiaで「製品⼒賞」を受賞しています。
当社は、素材が⼀番重要であり、魅⼒的な素材を導⼊して展開しなければお客様に良いものを届けることはできませんし、競合他社との差別化も図れません。今後も引き続き、トレメルガムやシロキクラゲ多糖のような素材の探索を続けていきます。既存のものだけでは限界があるため、相乗効果がある新たな素材を探し、様々なアプリケーションで活躍できるような素材を発掘し、世の中により良い製品を届けていきたいと考えています。
開発者情報
長尾 直弥
開発本部商品開発G所属 2016年入社
入社から一貫して開発業務に従事。取り組んできた食品アプリケーションは多岐に渡り、各素材の特性の理解を深めてきた。これまでの経験を活かしながら、食品メーカーの課題解決に日々励んでいる。